大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋家庭裁判所 昭和61年(家)1442号 審判

申立人 遺言執行者杉下安雄

相手方 遠山英義

被相続人 遠山愛予

主文

相手方を被相続人の推定相続人から廃除する。

理由

第1、申立ての要旨

申立人は、昭和60年9月9日死亡した被相続人の遺言執行者であるが、被相続人は、その遺言において、相手方を被相続人の推定相続人から廃除する旨及びその理由は相手方が被相続人を遺棄し、不貞行為を続けてきたからである旨の意思を表明している。

よつて、申立人は遺言執行者として相手方が被相続人遠山愛子の推定相続人であることを廃除する旨の審判を求める。

第2、当裁判所の判断

1  一件記録、家庭裁判所調査官○○○○作成の調査報告書及び申立人、増川美奈子、佐山典子、相手方の各審問の結果を総合すると、次の各事実が認められる。

(1)  相手方は、被相続人の夫で遺留分を有する推定相続人である。被相続人は、相手方を推定相続人から廃除する旨の昭和58年5月29日付遺言書を自筆作成して、昭和60年9月9日死亡した。被相続人は上記遺言書において、遺言執行者として、申立人を指定した。その後上記遺言書について検認手続がとられた。

(2)  遺言書には、被相続人が相手方を廃除する理由として、「相手方は妻である被相続人を長期間に亘つて遺棄し、不貞行為を続けた」と記されている。

(3)  被相続人と相手方は、昭和26年6月6日婚姻届出をして夫婦となつた。そして二人の間には長女美奈子(昭和27年7月23日生)と二女典子(昭和30年10月20日生)の二人の子がある。相手方は○○金属工業(株)に(昭和57年7月7日まで)勤務するサラリーマンであり、被相続人は専業の主婦であつた。二人は婚姻後しばらくは円満な普通の夫婦であつたが、遅くとも昭和46年頃から相手方は坂田とく枝(以下坂田という)と愛人関係になり、次第に夫婦関係が不仲になり、家庭生活に問題を生じるようになつた。

(4)  昭和54年7月頃、相手方と坂田の愛人関係が被相続人に確定的に知られるところとなり、夫婦間の激しいいさかいの末同月中旬頃相手方は家を出て、上記坂田と生活するようになつた。以後今日まで相手方は坂田と同居している。

(5)  昭和54年10月中旬頃、相手方は胃潰瘍で○○○○病院に入院したが、坂田が同病院に相手方を見舞いに来て、色々と相手方の世話をしていたことを原因として、同年11月16日頃同病院に相手方を見舞いに訪れた被相続人に対して強い不快感から激しい暴行を加えて治療10日間を要する傷害を与える結果となり、被相続人に強いシヨツクを与えた。

(6)  昭和55年春頃、被相続人は相手方に対する家事調停を申立て、昭和56年1月20日、家庭裁判所の調停において相手方が被相続人に婚姻費用分担金として昭和56年1月から1か月金13万5000円を支払うことで調停が成立した。相手方は被相続人に対して上記調停以後昭和60年8月頃まで婚姻費用分担金を支払つてきたが、その金額は昭和57年中頃までは上記金額より若干多い金額を支払つたが、同年中旬から4万円ないし6万円くらいとなり、最後は2万5000円程度になるなど、最近三年間は大幅に減少した金額を支払う結果となつた。その他婚姻費用としては、相手方は被相続人に対し、ゴルフクラブの会員権、銀行預金、生命保険金など全部で1、000万円以上の財産を与えた。

(7)  被相続人は、相手方からの婚姻費用の支払いだけでは生活に余裕がないこともあり、求人先を捜しては働きに出るなどした。そして、一人暮しをしている母親を心配した長女が昭和57年頃被相続人を引取つて同居させた。そして、昭和59年には従来相手方と住んでいた中村区○○○町の土地、家屋を売却して、春日井市に新たに土地を購入して、長女夫婦が家を建て、被相続人と生活をするようになつた。

(8)  被相続人は、昭和58年乳ガンが発病し、以後入退院をくり返し、2年間の闘病生活の末死亡するに至つた。その間、長女及び二女はその夫と共に献身的に被相続人を看病し続けた。一方相手方は時々病院を見舞うことはあつたが、夫として死の病いにある妻を見舞う心情は乏しく、比較的冷い態度に終始し、被相続人の葬儀も長女の夫に依頼する状態であつた。

(9)  被相続人は、夫である相手方に嫌われ、冷くされ、無視されながら、終始相手方が目覚めて被相続人のもとに帰つてくるのを待ち続けていた心情が窺われる。これに対して、相手方は妻をはじめ娘たちや親族の度度の説得にも応ぜず、愛人である坂田にひかれ、ついに被相続人のもとに帰らず、同人が重病の床についてからも形式的な見舞い程度で全体的に冷淡な態度に終始したものである。相手方は婚姻費用分担金やその他の財産を供与していたとはいえ、多額の医療費などのため被相続人の生活は必ずしも余裕のあるものではなかつた。

2  以上認定の事実によつて判断するに、相手方は昭和54年以来被相続人のもとを去つて、愛人である坂田と生活し、被相続人の死去に至つたものである。夫婦共同生活は物質面と共に精神面での意味も大きいことを考慮すると、相手方は物質的にはともかく、精神的には明らかに妻を遺棄したものといわざるを得ない。又長年不貞行為を継続したことも明らかである。従つて、相手方の被相続人に対するかかる行状は、これを総合して相続的協同関係を破壊するに足る著しい非行に該当するといわなければならない。よつて、本件申立ては理由があるのでこれを認容することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 須山幸夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例